Exhibition Highlights

Birkenau

リヒター近年の最重要作品、
日本初公開

4点の巨大な抽象画からなる作品、《ビルケナウ》(2014年)。本展では、絵画と全く同寸の4点の複製写真と大きな横長の鏡の作品(グレイの鏡)などを伴って展示されます。見た目は抽象絵画ですが、その下層には、アウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所で囚人が隠し撮りした写真を描き写したイメージが隠れています。リヒターは、1960年代以降、ホロコーストという主題に何度か取り組もうと試みたものの、この深刻な問題に対して適切な表現方法を見つけられず、断念してきました。2014年にこの作品を完成させ、自らの芸術的課題から「自分が自由になった」と感じたと作家本人が語っているように、リヒターにとっての達成点であり、また転換点にもなった作品です。

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《ビルケナウ》 2014年 油彩、キャンバス 各260 x 200cm

テーマでたどるリヒターの画業

会場では、初期のフォト・ペインティングからカラーチャート、グレイペインティング、アブストラクト・ペインティング、オイル・オン・フォト、そして最新作のドローイングまで、リヒターがこれまで取り組んできた多種多様な作品を紹介。特定の鑑賞順に縛られず、来場者が自由にそれぞれのシリーズを往還しながら、リヒターの作品と対峙することができる空間を創出します。

フォト・ペインティング

写真を忠実に描くことで、絵画を制作する上での約束事や主観性を回避し、代わりに写真の客観性やありふれたモチーフを獲得する「フォト・ペインティング」と呼ばれる絵画のシリーズのひとつです。刷毛で表面を擦ることで生じた「ぼけ」は、絵画と写真とのあいだで、イメージのもっともらしさや客観性とは何かと考えさせます。

《モーターボート(第1ヴァージョン)(79a)》

油彩、キャンバス 1965年 169.5×169.5cm

カラー・チャート

1966年に初めて制作された「カラー・チャート」シリーズに連なる作品です。当初は、絵具の見本帖をもとに描かれましたが、この作品は25色で構成された約50cm四方の正方形のカラーチップ、全196枚からなり、空間に合わせて異なる展示方法がとられます。その並びによってなんらかの像や意味が生じることはありませんが、鮮烈な色彩の印象を見る者に与える作品です。

《4900の色彩(901)》

ラッカー、アルディボンド、196枚のパネル 2007年 680×680cm パネル各48.5×48.5cm

グレイペインティング

1960年代後半に始まった、グレイの色彩で画面を覆うシリーズについて、リヒターはグレイの色彩を「なんの感情も、連想も生み出さない」「「無」を明示するに最適な」色と表現しています。しかしグレイといっても作品によって色の調子や筆致が微妙に異なり、豊かなヴァリエーションを生み出しています。

《グレイの縞模様(192-1)》

油彩、キャンバス 1968年 200×200cm

アブストラクト・ペインティング

「アブストラクト・ペインティング」は、1976年以降、40年以上描き続けられているシリーズです。80年代中頃にリヒターは大ぶりなスキージ(へら)で絵具を塗り、そして削るという技法を確立しました。近年では小さなキッチンナイフも用いることで、これまで以上に細やかな調子の変化を画面に見てとることができます。

《アブストラクト・ペインティング(952-2)》

油彩、キャンバス 2017 年 200×200cm

オイル・オン・フォト

「オイル・オン・フォト」とは、1980年代後半から作られ始めた写真に油絵具などを塗りつけたシリーズです。ほとんどの場合、日付が作品名になっています。絵具は写真のイメージを覆い隠し、物質的な存在感を強調します。一方、写真の再現性に比してその上に塗布される絵具はいつも抽象的です。写真と絵具が混じり合うことなく、同一の平面上に並置されるこのシリーズは、小さいながらもリヒターの創作の核心を端的に提示してくれるものでしょう。

《1998年2月14日》

油彩、写真 1998年 10.0×14.8 cm

ドローイング

一般的にドローイングとは絵画を描くための下絵、あるいは構想といった役割を果たすことが多いですが、今回出品されるリヒターのドローイングは、断片的な線や面を画面全体に配した、抽象的なものです。抽象的なドローイングは《アブストラクト・ペインティング》を開始した1976年以降、断続的に描かれるようになりました。製図のような直線、円、細やかな陰影は、何かを表しているわけではないようですが、じっと眺めていると、風景のようにも見えてきます。

《2021年8月17日》

グラファイト、紙 2021年 21x29.7cm

ゲルハルト・リヒター

1932年、ドイツ東部、ドレスデンに生まれました。ベルリンの壁が作られる直前、1961年に西ドイツへ移住し、デュッセルドルフ芸術アカデミーで学びます。コンラート・フィッシャーやジグマー・ポルケらと「資本主義リアリズム」と呼ばれる運動を展開し、そのなかで独自の表現を発表し、徐々にその名が知られるようになります。その後、イメージの成立条件を問い直す、多岐にわたる作品を通じて、ドイツ国内のみならず、世界で評価されるようになりました。ポンピドゥー・センター(パリ、1977年)、テート・ギャラリー(ロンドン、1991年)、ニューヨーク近代美術館(2002年)、テート・モダン(ロンドン、2011年)、メトロポリタン美術館(ニューヨーク、2020年)など、世界の名だたる美術館で個展を開催。現代で最も重要な画家としての地位を不動のものとしています。

Photo: Dietmar Elger, courtesy of the Gerhard
Richter Archive Dresden

All images © Gerhard Richter 2022 (07062022)